ちょうど1年前のこの時期でしょうか、漫画の島耕作をイメージキャラクターとして、日本腎臓財団法人がACジャパンと共に慢性腎臓病(CKD)を減らすことを目的として予防啓発キャンペーン活動を行っていましたね。駅構内や電車内でもポスターを頻繁に見かけたことは記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。

「腎臓検診」に行くことを呼び掛けたものでした。

 「腎臓健診!」と言われてもピンとこない方も多いと思います。腎臓病にも色々と種類がありますが、その中でも慢性腎臓病(CKD)の患者数は日本の成人の8人に1人と大変多い事に加え、腎臓は寿命を決めると言っても過言ではないほど重要な臓器にも関わらず、腎臓については意外と知られていないのが現状です。

近年、脳トレや腸活など臓器にフォーカスした健康法が盛んにメディアに取り上げられる中では地味な印象の腎臓ですが、腎臓を大事にしないと大きな落とし穴が潜んでいます。

 一番怖いのは、腎臓が大変がまん強い臓器という事です!日本の新たな国民病とも呼ばれる慢性腎臓病(CKD)ですが、大きくダメージを受けるまで症状が出にくく病気になっているにもかかわらず痛くもかゆくもなく異変に気付けません知らないうちに病気は進行し、気付いた時には取り返しのつかないほど悪化しているケースも多々あるのです。

 

 日本腎臓財団法人の広告の中でも年を重ねた島耕作が、若き島耕作に忠告しています。

「慢性腎臓病は、無症状で進むんだ。心筋梗塞脳卒中にもつながりかねない。」

「早めの行動が大切だ。仕事とおなじさ!だから、若いうちから、腎臓検診。」

 

腎臓病なのに心筋梗塞や脳卒中?!とびっくりされた方もいたかもしれませんが、実は腎臓は尿という形で老廃物を除去するだけでなく、身体に対して重要な働きを担っている事に関係しています。

腎臓はホルモンの分泌などにも関与し、血圧や貧血、骨の健康などにも影響を及ぼしているのです。よって腎機能が低下すると貧血骨粗鬆症を起こしやすくなったり、高血圧になり血管を傷つけ動脈硬化になり、果ては心筋梗塞脳卒中など死につながる恐ろしい病気のリスクも高まるのです。

 このような腎臓の特徴により、腎臓病と高血圧の恐怖の悪循環が始まり、腎臓病は悪化の一途をたどります。前述のように腎機能が低下すると血圧も上がっていきます。血圧が上がると腎臓の負担も増えますます腎機能が低下し、それがまた血圧を高くする…。

そしてこれも腎臓の怖いところですが、腎臓の機能は一度失われると回復しない場合が多いのです。ある段階まで機能が低下した腎臓は悪化する一方で治らない病気でもあるのです。

 腎臓は命に係わる重要な臓器なのにダメージを受けていても症状が出にくく、修復もしない…慢性腎臓病(CKD)が進行し、腎臓が本来なすべき働きが出来なくなった状態、すなわち「腎不全」になると、人工的に血液をきれいにする働きを腎臓に代わって行う治療法である「透析」を行う必要があります。慢性腎臓病(CKD)は最終的には透析療法を行わなければ生命を維持する事が出来ない状態に陥るのです。

 一生涯1~2日おきに透析治療を行わないと生きていけないという事実は、年齢が若ければ若いほど精神的な負担があることは容易に想像できます。実は私の父と弟が腎臓内科医で透析治療も行う病院を経営しており、病院に顔を出した際に患者様が私にも心の内をお話しくださった事があるのですが、大変お元気で前向きに通院されている方でもやはり透析導入が決まった際には精神的に落ち込むこともあったそうです。

透析治療以外に2つある腎臓のうち健康な人から1つ提供してもらう腎移植という方法もありますが、臓器提供者(ドナー)は現在の日本の法律では6 親等以内の血族や配偶者など厳しく限定されており、親兄弟・夫婦間など大切な人の献身の上に成り立つという事は言うまでもありません。脳死または心臓死の方から腎臓を頂く献腎移植の場合は15年以上など長い年月待機する必要があり、なかなかスムーズにいかないのが現状です。

腎臓を壊してしまうと色々と制限も多く、今まで当たり前だったライフスタイルも変更を余儀なくされることが多々あるのは事実です。人生設計自体変更せざるを得ない場合も多く、思い描いていた生き方が手に入らなくなることもあるのです。

 このようにダメージを受けると人生が変わりかねない重要な臓器、腎臓ですので、とにかく腎臓病は早期発見する事が大事です。早期発見し生活習慣を見直したり適切な治療を行う事により、透析になるのを回避または先延ばしにすることが可能な場合もあるのです

 腎臓病発見のチャンスは多くあります。学校や職場・自治体などの定期健診は欠かさず受けるべきでしょう。その際異常が少しでも見つかった場合は、症状が無くても放置せずに必ず再検査を受けることが重要です。

繰り返しになりますが腎臓は我慢強い臓器でなかなか悲鳴を上げてくれません。むくみ、尿の濁りや量の変化、血圧の上昇などの自覚症状は腎機能が1/3以下になるほどダメージを受けないと出てはくれないのです。

 また、腎臓を守るための正しい生活習慣や食事療法を日ごろから心がける事も大切です。そもそも腎機能は3040歳代以降加齢とともに低下していくといいます。腎臓を出来るだけ長持ちさせることが、快適な人生を守る事にもつながるのです。

腎臓に良い栄養療法については次回お伝えしたいと思います!

 

ここからは余談ですが、私が注目している米国の医療事情と腎臓関連のニュースにご興味がある方はお読みください。

現在米国では大統領選が白熱しており、私も興味深く状況をみています。医療関連でいうと民主党のカマラ・ハリス氏は連邦政府が保険者となる高齢者向け医療保険「メディケア」プログラムを、高齢者以外の人々に適用しようとする「メディケア・フォー・オール」の導入を上院議員時代から支持しており、全米国民に医療保険の恩恵を拡大することを目指しています。

日本のような皆保険制度が充実しておらず、高額な医療費が社会問題となっている米国において救いとなる素晴らしい政策ですが、利益を奪われる民間保険会社や医療業界の反対もある上に財政的な課題など、理想論だけでは一筋縄では行かないのが現状です。

 一方共和党のドナルド・トランプ氏ですが、大統領時代の2019年に「腎臓の健康のための大統領令」に署名し、腎臓移植へのアクセスの増加や人工腎臓の開発への投資の加速を促すことを行っていました。

米国でも慢性腎臓病(CKD)の有病率は近年上昇しています。米国疾病管理予防センター(CDC)が2023年に発表したデータによると米国の成人の約14%が慢性腎臓病(CKD)と診断されたほどで、それに伴い透析患者も増加し深刻な状況です。

 そのため、米国では腎不全患者の生活の質を向上させるために必要な透析サービスの需要が近年急増しています。トランプ氏も大統領令で在宅での透析の導入を促すことも行っていました。

新型コロナウィルス感染症(COVID19)の流行の影響もあったと思いますが、米国では病院内透析から在宅透析への移行が現在大きなトレンドの一つとなっており、トランプ氏の当時の政策も大きく影響していると思われます。

 しかしながら在宅透析は通院しないで良いという、患者にとってはライフスタイルの改善に大きなメリットもある一方で、患者がある程度自己管理をせざるを得なく、病院内透析とは違い医療従事者の目が届きにくいというデメリットもあります。

米国では巨大な腎疾患領域の治療における既存の課題に取り組むべく、患者が在宅でも安全に治療できるよう、オンライン治療のプラットフォーム等を提供するスタートアップ企業も誕生し注目が集まっています。

腎臓専門医、栄養士、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーのチームが患者に透析治療を含めた腎疾患のケアを遠隔治療も含め行い、より安全に患者が在宅で治療や透析を行うことが可能となることを目指しています。

 この企業の医療提供モデルは透析患者にだけ有用ではありません。腎臓病の「予防」の分野にも大きく貢献します。

医療機関と連携し患者情報にアクセスし、データ分析を活用することで早期にまだ無症状の腎疾患ハイリスク患者を高精度でスクリーニングし、腎臓に問題がある場合オンライン上も含め医療チームが患者により早い段階で継続的に関わることで、慢性腎臓病(CKD)が悪化するのを食い止めるべく患者の予防行動を促すのです。

 慢性腎臓病は前述のようにとにかく早期発見が重要で、状況に応じた治療や塩分の摂取量を適切にするなど食事療法を行う事で悪化するスピードを抑えたり、透析治療に移行するのを回避または先延ばし出来る可能性があるので、素晴らしいビジネスモデルだと感心しました。

 また、バーチャルプラットフォームを通じて腎疾患患者個人に合わせた教育の提供を行い、複雑な状態を予測分析し、管理することは患者にとって有益なだけでなく医療従事者の仕事の負担も大幅に軽減できます。米国のみならず日本でも特に医師の過労が問題となっていますが、その改善にも一役買うこととなるでしょう。

 これらの企業の医療提供モデルは腎疾患関連の栄養療法の分野でも大きく貢献しますので私も非常に注目しています。栄養療法の話題については書き出すと長くなりすぎてしまうので(笑)また別の機会にお伝えしようと思います!