近年猛威を振るった新型コロナウィルス感染症もずいぶんと落ち着いたように見えますが、未だに感染後の後遺症に悩まれている方が多いと聞きます。

後遺症に悩まされている人は何も体力のない老年期の方ばかりではありません。昨日後遺症の話が記事になっていましたが、神奈川県が実施したアンケートを東京新聞が独自に分析したところ、感染歴のある人のうち年代が若い人ほど後遺症に悩む割合がむしろ高い傾向にあるといいます。

中でもコロナ感染後に、なぜか気分が落ち込む…など精神的な症状の事を日本では「コロナうつ」と呼びメディアでも騒がれましたが、頭に霧がかかったようなぼんやりした状態、いわゆる「ブレインフォグ」と呼ばれるコロナ後遺症は世界的にも問題となりました。コロナ感染者の約20%に後遺症が出ているというデータがあるアメリカでも、ブレインフォグに悩む方も多いと聞きます。ブレインフォグの状態として具体的に記載すると以下などが挙げられます。

 ・頭がぼーっとして集中できない

・気分が落ち込む

・やる気が出ない

・頻繁に物忘れし考えもまとまらない

・会話が頭に入ってこない

 コロナ後遺症は数か月から数年続くというデータがあります。精神的にも不調の状態が長期間続くとなると…当事者の方はさぞかし辛いことと思います。

 気分障害はコロナに感染したことによる不安などからくるものと考え、「なんて自分はメンタルが弱いんだ!」と自分を責めてしまう方もいると聞き、心が痛みます。

 人生を台無しにしかねない感染後の気分障害の問題は特に深刻なことだと私も常々思っていました。

しかしながら新型コロナウィルスに感染すると長期メンタル関連にダメージを負ってしまうとは不可解だと思いませんか?

 もちろんウィルス感染による健康面での不安や、一時期休職や休学をせざるを得なく、そのために受けた社会的・金銭的な損害による落ち込みなどの要因もあるとは思います。

 しかし普段精神的にタフで立ち直るのが早い方なども後遺症に悩まれるなど色々説明できない部分もあるといい、私も何か新型コロナウィルスが身体の機能に及ぼす影響があるのではないかと疑っており、色々論文なども調べていました。

 すると、コロナウィルスが脳の幸福物質濃度を低下させているということが、アメリカのペンシルベニア大学の研究報告であったのです!

 一部の新型コロナウイルス感染症患者の腸内にウィルスが数カ月にわたり残存し、この残存ウイルスが脳内の幸福物質「セロトニン」濃度を低下させ、それが後遺症の一因となっている可能性があることが判明したのです。

このメカニズムにより、後遺症でおこるブレインフォグ、記憶力低下などの症状を説明できる可能性があるといいます。この研究は世界最高峰の学術誌である「Cell20231026日号に掲載されました。

 研究のざっくりとした内容ですが、後遺症患者の一部の方には、感染から数カ月が経過しても、新型コロナウイルスが便の中に残存していました。この体内にいたと考えられる残存ウイルスが免疫系を刺激し、ウイルスと闘うインターフェロンを放出させていたのですが、そのインターフェロンが引き起こす炎症により、消化管での「トリプトファン」の吸収を低下させていたのです。

 トリプトファン脳内の幸福物質「セロトニン」の材料となるアミノ酸です。

(トリプトファンについて詳しくは「こころに良い栄養素を知ることで人生も変わります」を参照ください。)

トリプトファンは人間の身体では作ることが出来ない食事から補給するしかない必須アミノ酸ですので、当然消化管からの吸収が妨害されると体内で不足していきます。トリプトファンが不足すると、セロトニンも不足していきます。セロトニンは精神の安定や意欲、集中力などと関連していますので、それが不足となると…。

 コロナウィルスが長期にわたって脳内の幸福物質の低下に関与していたなんて…恐ろしい話です。

この研究結果を踏まえ、研究者らはさらにその対策も検討しました。

トリプトファンを補充することがコロナ後遺症の症状改善に有益かどうかを調査したのです。

すると動物実験にはなりますが、認知機能を低下させたマウスモデルに、トリプトファンの科学的副産物(5-ヒドロキシトリプトファン)を投与したところ、認知機能が改善するという結果が得られたのです。

 この研究では、体内のセロトニン効率を無理やり上げる、いわゆる抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI))投与に関しても、同じく認知機能の改善がみられたという結果が出ています。

 しかし、トリプトファンと処方箋がないと入手できない抗うつ薬では、摂取の難易度が何倍も違いますので、たんぱく質を食べれば補給できるアミノ酸のトリプトファンは、身近な救世主と言えるでしょう。

 因みに上記の研究で使用されたトリプトファンの科学的副産物(5₋ヒドロキシトリプトファン)はアメリカではサプリメントで販売されていますが、日本では副作用もあることから医薬品に分類され、サプリメントとして購入することが出来ません。

しかしトリプトファンを摂取すればトリプトファン5₋ヒドロキシトリプトファン→セロトニン 体内で変化してくれますので問題ありません。

トリプトファンが体内で幸福物質セロトニンになることを支配している「ビタミンB群」も併せてしっかり摂ることもおすすめ出来ます。

とくかく、コロナ後遺症に悩む方は、たんぱく質はしっかりと食べた方が良いですね。

 新型コロナウィルスが一番猛威を振るっていた時期は「コロナ禍」とも呼ばれていましたが、「禍」とは「不幸なできごと」も意味します。新型コロナウイルス自身が不幸な気分にさせていたなんて…なんとも恐ろしいウィルスです…。