こんにちは!薬剤師の平井です。
今回は前回に続き、腎臓に良い栄養素についてお伝えしたいと思います。
腎臓に良い栄養や食事って何だろう、と多くの方が疑問に思うと思いますが、実はあまり難しく考えなくても実践する事が可能です。
簡単に言うと、ビタミン・ミネラルが豊富で健康的でバランスの取れた食事を心がけることが、腎臓の為には何より重要なのです!
厚生労働省によると慢性腎臓病(CKD)発症の危険因子は、高齢、腎臓病の家族歴、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)などの医薬品の常用、感染症、膠原病等とされていますが、慢性腎臓病が起こる原因は未だに不明な事が多いといいます。様々な仮説があり世界中の研究者が追及していますが、近年の医学の進歩を以てしても全てにおいてはハッキリと解明されてはいません。例えば慢性腎臓病の原因となるIgA腎症は風邪などの疾病の際の免疫の異常で起こってしまう病気ですが、北欧や北米では比較的少数にも関わらず日本人に大変多く、発病の地域差の原因は不明とされており、その他病気になるのを防ぐことが難しかった不幸なケースも数多くあるのです。
このように原因不明でいつの間にか腎臓病を発症していた…という事が起きてしまうのが本当に腎臓のやっかいなところです。感染症の後遺症の場合、気付かずに過ごしてしまう人がいてもおかしくはありません。
日本ではあまり話題になりませんでしたが、アメリカでは新型コロナウィルス感染症の後遺症として腎機能低下も看過できないという研究結果が米国腎臓学会誌に掲載され、米大手メディアにも取り上げられた事から世間に衝撃が奔りました。日本でもちょうどこの時期は免疫力が低下しやすいと言われています。感染症に罹らないよう手洗いやうがいなど、出来る対策は行いたいですね。
しかし慢性腎臓病は気を付けていれば回避する事が可能な場合もあるのです。
厚生労働省によると上記の他に、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症(痛風)、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病も慢性腎臓病発症の危険因子に挙げられ、これらを有する人に対しては早期から生活習慣の改善や治療が必要としています。
「生活習慣病」を防ぐライフスタイルが慢性腎臓病になるリスクを低下させ、腎機能を守ることとなるのです!
特に食事は毎日のルーティンです。何気ない間違った食生活の連続が、知らず知らずのうちに腎臓を傷めている可能性もあるのです。
前回の記事、「島耕作も言っている!腎臓健診!若いうちから!」でもお伝えした通り、そもそも腎臓は30~40歳代の中年期以降、加齢とともに機能が低下していくといいます。人生50年と言われた戦前ならまだしも、現在日本では人生100年時代と言われ、健康寿命をいかに伸ばせるかが大きな課題となっており、間違いなく腎臓もその一端を担う重要な臓器です。何もしなくても年を重ねるだけで衰えていく腎臓を出来るだけ長持ちさせるためには、若いうちから腎臓を傷めない食生活を意識する事が必要不可欠となります。
ストレスをため込みすぎない、適度な運動や睡眠時間を確保するなど健康的な生活を心掛けることを大前提として、今回はさらに腎臓に良い栄養食をご紹介したいと思います!
腎臓の健康が気になる方は是非参考にしていただけると嬉しいです。
※【ご注意】以下の情報は病気でない方向けの情報であり、既に腎臓病になられている患者様はそれに適した食事療法や治療があります。おかかりの病院の医師や栄養士の指導に従いましょう。
慢性腎臓病の予防としてアメリカでは有名な食事療法があります。それがDASH食です。
DASH食とはもともと米国立衛生研究所の主導のもと開発された高血圧を防ぐ食事法ですが、慢性腎臓病のリスクも下げることが証明されており日本でも近年注目されています。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインにも掲載されているほどです。
日本人を含むアジア圏の人々は腎臓の健康には本当に注意を払わないといけません。実は慢性腎臓病になるリスクを大幅に高めるAPOL1変異体という遺伝子をアジア圏の人々が多く持っていることが近年判明しました。この腎臓病になりやすい遺伝子は西アフリカの人々が最多で持っていますが、しかし日本人は慢性腎臓病の要因にもなる2型糖尿病に遺伝的になりやすい体質など他のリスクも併せ持っているのです。日本人としては本当にこれは迷惑な問題ですね!
このように慢性腎臓病のリスク要因が多いと言われるアジア圏において、医療先進国アメリカで研究開発されたDASH食事療法が導入されようとする動きがあるのですが、なにせ食文化や入手できる食材の違いがあるのでそのまま参考に、というわけにもいきません。そこで一部のアジア圏の国では自国の食文化に合わせたDASH食の献立の研究なども進んでおり、日本でも同様の動きがありますので今後DASH食は益々注目されるかもしれませんね。
今回はオリジナルのDASH食を日本人でもすぐに実践しやすいように「積極的に食べた方が良い食物」の例で示し、栄養学的にも簡単に解説しましたので是非ご覧ください。
「腎臓の健康のために積極的に食べた方が良い食物」
◎野菜・果物
野菜や果物にはビタミンC、ビタミンA、ビタミンEなど抗酸化ビタミンが含まれています。また、トマトにはリコピン、ブルーベリーにはアントシアニンなど、野菜や果物にはファイトケミカルという独自の、様々な抗酸化物質が含まれており、抗酸化ビタミンとファイトケミカルは活性酸素の害から体を守ることで腎臓の健康のみならず病気の予防になり健康全般に大きく貢献します。
人は生きているだけで活性酸素を発生させてしまいますが、適度な活性酸素は免疫機能を維持するなど必要な物質です。しかし加齢やストレス・睡眠不足・感染症・喫煙・過度な運動などで活性酸素が過剰になり、身体に多岐にわたりダメージを与えることが分かっています。
過剰な活性酸素は老化を促進させ、免疫機能を低下させ、がんなど様々な病気の引き金となります。例えば動脈硬化を起こしやすくする過酸化脂質を作り出すなど生活習慣病の要因にもなり、腎臓にもダメージを与えるのでそれに対抗出来る抗酸化物質の摂取は大変有用なのです。
体内の活性酸素に抗う抗酸化防御機能は20代をピークに徐々に衰え、40代を過ぎると急激に低下すると言われていますので、年を重ねた方は腎臓の健康のためにも抗酸化物質の補給が特に重要となります。
また、野菜や果物に含まれるカリウムは塩分(ナトリウム)の体外排泄を促進し、高血圧を防ぎ腎臓の健康に貢献します。
野菜や果物が健康に良い!と言われるのはこのような理由からなのです。
人参のカロテン、りんごのポリフェノール、ホウレン草のベータカロテンなど、多種多様な抗酸化物質のファイトケミカルは抗酸化ビタミンと同様に腎臓の健康のみならずアンチエイジングに貢献し、健康全般を後押ししてくれます。
ビタミンの効果がそれぞれ違うように、ファイトケミカルも種類ごとに独自の健康効果を持ちます。これで野菜や果物の多品目の摂取が望ましい、と言われる理由も分かりますよね!様々な種類の野菜や果物を摂取するのはとても大変ですが、無理のない範囲で心掛けたいですね。
◎海藻・きのこ類・穀物
海藻には水溶性食物繊維が、きのこ類・穀物には不溶性食物繊維が多く含まれ、脂質・糖質・塩分(ナトリウム)を吸着して体外排出を促進することから高血圧などの生活習慣病の予防に貢献し、腎臓の健康を守ります。
◎魚介類
魚介類にはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3脂肪酸が含まれており、血中の中性脂肪やコレステロールを低下させる作用があります。血圧を下げる作用もあり、腎機能を良好に保ちます。
オーストラリアの名門ニューサウスウェールズ大学の調査では、魚介由来のオメガ3脂肪酸の摂取量が多いほど慢性腎臓病の発症リスクが低いという研究結果が報告されています。
◎鶏肉
人の身体を構成しているのはたんぱく質です。たんぱく質を不足なく補給することにより、血管の丈夫さなどに貢献し、腎機能を守ります。皮の部分などの脂肪分は取り除くことが推奨されています。
◎無脂肪または低脂肪の乳製品
カルシウムを含み、血圧の低下に貢献し腎臓を保護します。日本人は欧米人よりも乳糖不耐性の体質の割合が多いので小魚などからカルシウムを補給する方が無難という意見もあります。しかし国立がん研究センターが中心となった国内で近年行われた研究では、発酵乳の摂取量が多いほど、男性の全死亡、がん死亡、心血管疾患死亡のリスクが減少するなど乳製品の健康効果を示すデータも存在しますので、乳製品の摂取に問題がない人はヨーグルトなどの発酵乳を適度に取り入れるのは良いでしょう。
◎ナッツ・種子類・豆類
オメガ3脂肪酸、カリウムを含み、腎臓の健康をサポートします。また、含有するマグネシウムは血管を拡張させ血圧を下げる効果があります。
ただ、ナッツ類にはミネラルのリンが多く含まれるという懸念もあるので食べすぎには注意が必要です。リンの過剰摂取は主なリン排泄経路である腎臓の負担ともなるからです。しかしリンの過剰を気にするなら加工食品により注意を払うべきです。加工食品にこそ添加物としてリンが多く含まれるからです。さらに重要なのは加工食品と自然由来のものでは体内のリンの吸収率が異なります。ナッツなどの植物性食品は20~40%程度に対し、ハムやソーセージ、コーラなどの加工食品では、リンの吸収率は90%以上とも言われていますので、加工食品を先ずは控えるべきなのです。加工食品は栄養素が少ないだけでなく、加工食品に含まれるPHP調整剤などのリン酸化合物の添加物はミネラルなどの栄養素の吸収を阻害してしまいます。これが加工食品が身体に悪いと言われる理由の一つです。加工食品は手軽で便利ですが、腎臓の健康のためにもほどほどにした方が良いですね。
いかがでしょうか。DASH食も特に難しい食事療法でもないので、誰でも簡単に実践出来そうですよね!
実践時のポイントとして、大前提としてDASH食は減塩を推奨していますので塩分の摂取量には一番に注意を払いましょう。
DASH食は糖尿病や心臓病の予防にもなるとアメリカでは支持されている食事療法ですので、腎臓の健康が気になる方だけでなく幅広い方に是非取り入れて欲しいです。
重要なことなので再度お伝えしますが、DASH食は注意書きに記載した通りあくまで腎臓病になられていない方向けの食事療法です。すでに腎臓病を患っている場合は、病気の状況に応じて食事も調整する必要があるため、DASH食を自己判断で始めず腎臓専門医および栄養士に必ず相談してください。
またサプリメントに関しても、腎臓病の方は摂取出来ない成分もあるため自己判断での摂取は危険なのでやめましょう。しかしながら、これは私も声を大にしてお伝えしたい事ですが、実は腎臓病の方こそ本来サプリメントが大きく必要となるケースがあり、アメリカでは治療の一環として活用されているのです。
腎臓を痛めると状況に応じた食事制限を行うことが必須となります。慢性腎臓病のための特別な食事療法に従うと、食品から特定のビタミンやミネラルを摂取しにくくなり栄養不足に陥る可能性があるのです。また、利尿剤など服用する薬の中には栄養素の排出を促進させるものもあり、さらに腎臓病が悪化し、腎臓の代わりに人工的に血液を綺麗にする透析治療を受け始めると、透析治療中に体内の一部のビタミンが失われるというデータがあります。このような状況から、アメリカでは腎臓病患者向けに特別に調整されたサプリメントのビタミン、ミネラル錠剤があり、医師の処方箋も必要となるケースもあるほどです。医療の一環として医療従事者の管理下のもと腎疾患患者に安全に、かつ高度な栄養療法が行われているのです。
それだけではなく、腎臓病にならないために医師や栄養士に相談しながら「予防」的にサプリメントを摂取するケースも多いです。特別な知識のある腎臓専門の栄養士もいるため、合理的に栄養素を取り入れることが可能なのです。
日本では小林製薬の紅麹サプリメントが腎臓に害を与えた事件のせいで、サプリメントを必要以上に危険視されるようになった方がおられるようで、それは大変遺憾に思っています。そもそも紅麹の成分が問題ではなく、不衛生でずさんな工場の管理体制のせいで青かびが繁殖し腎障害を引き起こした可能性が高いとのことでした。
さらに言えば、根本的な問題としてコレステロールを下げるという紅麹エキスは身体に作用する仕組みが処方薬であるスタチン剤と同じで栄養補充ではありませんので体質改善も見込めません。私だったら絶対にサプリメントとして勧めません。ビタミンB2(B群)やDHAなどのオメガ3、ビタミンC、その他諸々の栄養強化を検討すべきでしょう。
私の予防医療の理念は合理的な栄養補給と、食事療法が最優先と考えています。
コレステロールは食事療法で改善できる場合が非常に多いのです。コレステロールが気になるならまずは食事を含めた生活習慣を見直し、基準値以上の場合は医療機関に相談すべきです。
(コレステロールを下げる食事療法に関してはこちらの記事をご参考ください。)
しかしながら余談ですが、コレステロールを下げるスタチン剤の服用は、体内のコエンザイムQ10レベルを低下させてしまうことが分かっており、アメリカでは医師や栄養士に相談し、薬の服用状況も鑑みながらコエンザイムQ10のサプリメントを補給することなども行われています。日本では法的な問題もあり、なかなかそのような理にかなったサプリメントの活用は難しい状況ですが、より合理的にサプリメントが使用できるような土壌が日本でも育ってくれるように願い私も地道に活動を続けていきたいと思います。
私の父と弟が腎臓内科医ということもあり、腎臓の健康には特に思い入れが強く今回は長い文章になってしまいましたが…汗)最後までお読みくださりありがとうございました!
今後はもうちょっとサクッと読める(笑)健康情報をドシドシ発信していきたいと思いますので、定期的にチェックしていただけると大変嬉しいです!