2023
3/06
こころに良い栄養素を知る事で人生も変わります
今回は前回に続き「こころ」の栄養療法についてお伝えしたいと思います。
思えば私が「こころ」の成り立ちに興味を持ったのは薬学生の時でした。抗うつ薬などについて学んだ際に、こころ(精神)も脳という臓器により成り立っていること、さらに薬によりこころを変えられるという事実がひどく興味深かったのを覚えています。その後大学卒業後に病院薬剤師で働く傍ら栄養療法を自主的に学んでいるうちに、抗うつ薬以外にも栄養で「こころ」をより良くすることを目指せるという事を知り、以来「こころと栄養」については勉強を重ねています。
うつは「こころの風邪」とも言いますが、更年期などホルモンの影響や遺伝的・病的要因は別として、たいていの人はストレスや環境の変化があった際に一時的に気持ちが落ち込むことがあれど自力で乗り越えて徐々に安定させていきます。
私もサプリメント専門の薬剤師としてもう10年以上活動していますが、こころの不調を訴えて相談に来られるお客様は大変多く、サプリメント以外にも食事・栄養療法なども多数アドバイスしてきました。そんな中考えさせられるのは、心の不調を感じながらも食事療法などの知識がないために、うつ病などの気分障害になるまで不調を放置し心を壊してしまい、薬に頼らないと日常生活が困難なほど、自力で気分を安定させられない状態にまで陥ってしまう方が驚くほど多くいることです。
一旦うつ病などの気分障害となってしまうと本当に長い期間かけて治療し心を回復させる必要があります。抗うつ薬や精神安定剤には副作用もあり、治療もスムーズにいかない場合もあり回復まで辛く苦しい過程をたどる場合もあります。やはり心の健康のために普段から出来ることを知る事は大変重要となりますし、人生は私たちの日々の意志決断で形成していくので、精神の状態を良好に保つことが出来れば人生も変わってくると言っても過言ではないでしょう。
前回の投稿⦅鬱になるメカニズムを知る事は心の病の予防にもつながります⦆でもお伝えしましたが、うつ病は精神を安定させている脳内の幸福物質「セロトニン」が減って意欲低下や抑うつが続いてしまう状態と一般的に言われています。
なので栄養療法としてはセロトニンを増やす・低下を起こさせない事が鍵と言えるでしょう。
「脳内の神経伝達物質セロトニン」というと意味不明なもののように思う方もいるかもしれませんが、実は原材料は私たちが毎日食べている「たんぱく質」の中にあります。
肉、魚、大豆製品、卵などから摂取できる「たんぱく質」ですが、20種類のアミノ酸から出来ていることはご存知の方も多いと思います。そのアミノ酸のうち9種類は体内で必要量合成できないため「必須アミノ酸」と呼ばれていますが、実は「セロトニン」の原材料の「トリプトファン」も必須アミノ酸となり食事から摂ることが必要不可欠となります。
トリプトファンはたんぱく質の中でも特に鶏肉や牛肉などの肉類、牛乳、卵黄、豆腐(大豆)、マグロ、チーズなどに多く含まれますが、バランスよくたんぱく質を食べていれば必要量摂取出来ます。
さらに、こころに良い栄養素で不足なく摂取したいのがビタミンB1、B2、B3、B6、B12、葉酸などからなるビタミンB群です。
B群の中でも特に重要なのがビタミンB6で、トリプトファンからセロトニンを合成する時に必要な栄養素となります。さらにB6は興奮状態を抑えたり精神を安定させている脳の抑制系神経伝達物質であるGABAの生産にも携わっているので不足なく摂取したいビタミンです。
また、ビタミンB6を含むB1、B2、B3(ナイアシン)などのビタミンB群は、糖質、たんぱく質、脂質など食物を体内でエネルギーに変える時に必要となる栄養素です。ビタミンB群が不足すると疲労感を感じるだけでなく、脳内のエネルギーも不足し脳の働きが悪くなり、集中力の低下や情緒の不安定を起こすと言われています。
ビタミンB12は中枢神経の働きに関係し、不足すると不眠のほか、集中力・記憶力の低下など含め精神状態に悪影響があると言われています。B12は中年期以降は体内での吸収力が低下していくので注意が必要です。さらにB12は肉や魚、貝類など動物性食品に多く含まれ植物性食品には少ない傾向にあります。欧米のベジタリアンの方などはビタミンB12を添加した加工食品やサプリメントにより不足分を補う例も多いですが、日本ではこの事実を知らない方も多く、健康のためにベジタリアン生活を行い始めたら無気力やイライラが止まらなくなったなどいう本末転倒なケースもあります。ベジタリアンの方はサプリメントで補うなど対策がやはり必要でしょう。
また、葉酸に関しては不足すると心の不安定、頭痛、気落ちが起こると言われています。
以下にビタミンB群がどのような食品に比較的多く含まれるかご参考までに簡単に記載します。
ビタミンB1 豚肉、大豆(豆腐)、ほうれん草、カリフラワー、玄米などの全粒穀物
ビタミンB2 豚肉、鶏卵、鶏や牛のレバー、いわし、サバ、鮭、うなぎ、乳製品
ビタミンB3 豚肉、牛や豚のレバー、カツオ、サバ、イワシ、玄米などの全粒穀物
ビタミンB6 鶏ササミ、まぐろ、いわし、カツオ、鮭、ニンニク、玄米などの全粒穀物
ビタミンB12 豚肉、牛や豚のレバー、サンマ、マグロ、牡蠣、あさり、しじみ、たらこ
葉酸 肉類のレバー、キャベツ、レタス、ブロッコリー、ほうれん草、大豆(豆腐)、さつまいも
気分が落ち込んでいるときは食欲があまりない場合も多く、パンや麺類など簡素な糖質食に頼ったり、逆にイライラしている時は甘い菓子類や清涼飲料水・スナック類など栄養価の低い糖質類を欲する場合がありますがこれには本当に注意が必要です。糖質中心の食生活はこころの健康に必須となるビタミンやたんぱく質などの栄養素が不足するだけでなく、マイナスの感情を加速させる引き金となるからです。
過度な糖質の摂取は血糖値を急上昇させます。血糖値が上がると一時的な快感がありますが、急上昇した血糖値は急に下がる傾向にあり低血糖を引き起こします。低血糖状態は精神に悪影響がある事が分かっており、苛立ちや不安に加え抑うつ的な状態となります。
問題なのは低血糖状態が凶暴性をも引き起こすことです。低血糖になると血糖値をあげるため副腎からアドレナリンを放出させ、肝臓を刺激しグリコーゲンを出し血糖値を上げますが、このアドレナリンが過剰だと攻撃性を高めると言われており、この理由により低血糖になると攻撃的で情緒不安定になると言われています。アメリカのアレキサンダー・G.シャウスの著書「栄養と犯罪行動」の中では暴力的な犯罪者の血糖値のコントロールが悪い例が紹介されており、低血糖が凶暴性を生み出す事例はアメリカ・イギリスなどの研究で多数報告されています。
やはり甘い菓子類やジュース・スナック類など栄養素が少ない糖質は控えめにし、ビタミン豊富な野菜や肉・魚・大豆製品などのたんぱく質を適量摂取する食生活はこころの健康のために必要不可欠と言えるでしょう。
こころに良い栄養や健康法などは今後も引き続きご紹介出来たらと思います。
最後に私なりにお伝えしたい事があります。私も薬剤師として病院や薬局、現在の健康事業を通して多くの方と関わる機会がありましたが、闘病されている方と関わると特に人生観や生き様というものを考えさせられます。がん患者様で辛い抗がん剤治療を続けているにも関わらず周りに感謝し、辛い中でも幸せに目を向け人生を全うされる方もいる一方、些細な事で不平不満ばかりの方もいます。毎日があまりに過酷な状況下だと話は別かもしれませんが、結局幸せと思うか不幸と思うかは自分次第で、物事はいくらでも良い方向に考え方次第で変えていけるという事を学んだように思います。
病気だけでなく生きていると様々な困難があり変えようもない不幸もあると思います。変えられない事を毎日悲観して過ごしても何かが変わるわけではありません。人生山あり谷ありといいますが、今が良くても今後何があるか分かりません。しかしどのような状況になっても今ある幸せを見出して生きていけたら、人生悪くないと思えるように感じます。