こんにちは!薬剤師の平井です。

 「アンチエイジング(抗老化)と栄養」についての分野は、私もサプリメント事業を始めてから重点的に情報収集してきたテーマの一つですが、今回はこの話題についてお伝えしようと思います!

 近年、栄養科学や医学、テクノロジーの進歩により、ロンジェビティ(Longevity)の追求が世界的トレンドとして幅広い業界で盛り上がっています。

ロンジェビティとは何?と思われる方もいるかもしれませんが、簡単に言うと「長寿」のことです。しかしヘルスケア領域では単に長生きを目指すことではなく、病気や加齢に伴う障害を防ぎ、活力ある健康的な人生を謳歌しよう!という、非常にポジティブな概念を指します。

近年の目覚ましい技術革新と共に、老化は科学的にコントロールして止める事が出来る、がんなど多くの病気も防ぐことができる、という認識が先進国を中心に強まっています。

その流れの中で世界的有名企業のCEOや、名だたる富豪や投資家などが抗老化ビジネスに先を争うように巨額の投資を行っています。具体的には昨今のAI革命を牽引しているオープンAIのサム・アルトマン氏や、グーグルの共同創立者ラリー・ペイジ氏、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏等々、抗老化ビジネスに関与しているメンバーは錚々たる顔ぶれです。

人類の悲願とも言える「抗老化」の分野の情報は面白すぎて、私も興味が尽きなく様々な角度から情報収集しており、とても一回のコラムでは書ききれないので!またおいおいお伝えするとして、

今回は「睡眠とアンチエイジング(抗老化)関連」の話題に絞って情報提供しようと思います!

 

まず前提として、日本人は世界的にみても睡眠不足の傾向にあると言われています。日米を含む先進国38か国が加盟する国際機関であるOECDの調査でも、日本人の睡眠時間は平均は7時間22分と最も短いというデータがあります。

NHKが2024年に独自に実施した調査だと、20代~50代の成人では、男女ともに約4~5割が1日当たりの睡眠時間が6時間未満となっていました。特に働き盛り世代に睡眠不足の人が多いという結果が出たのです。

睡眠不足や睡眠の質が悪いと何が良くないのかというと、私たちの健康へ多大なるデメリットを与えることが分かっているからです。多分皆さんが思っている以上の健康被害です!

前回の記事でもお伝えしたように、睡眠の質が悪いと認知症やアルツハイマー病など脳の疾患になるリスクが上昇します。

また、睡眠不足は脳の活動を低下させるだけではなく、様々な病気のリスクを高めることが知られています。

日本における不眠症の全国疫学調査では、睡眠不足が糖尿病、高血圧、心疾患、肥満などの幅広い生活習慣病のリスクを高めてしまう事が明らかにされました。

推定 5000~7000 万人と実に多くの成人が睡眠障害に慢性的に苦しんでいるとされるアメリカでも、睡眠障害はうつ病、がんのリスク増加、さらにはそれ以外にも死亡に直結する重大な疾患など、広範囲にわたり深刻な病気を誘発し、著しく健康被害を与えるという研究が数多く存在します。

残念なことに当然、肉体の内部が劣化するという事は、外見的にも劣化するということです。

睡眠の質が悪いと皮膚のたるみやしわも多くなってしまい、体形も崩れやすくなってしまうのです。

以前のコラムでもご紹介したアメリカの最先端病院のメイヨークリニックの研究では、睡眠不足は、空腹感や食欲を調節するレプチンやグレリンなどのホルモンの分泌を狂わせ、腹部の脂肪が蓄積しやすくなるという結果が出ました。

睡眠不足でない健康な人が過剰に食事を摂取するとその余剰分は皮膚の下の皮下脂肪に蓄積されますが、睡眠不足の人が食べ過ぎた場合、その余剰分は腹部の奥深くに炎症を引き起こす内臓脂肪として蓄積されるというデータが出たのです。睡眠不足は食欲を増進させるだけでなく、より不健康な形で太ってしまうという訳です。

米国睡眠医学会認定の、全米でも先駆的な睡眠障害の診断と治療に特化したクリーブランド・クリニック睡眠障害センターでも、睡眠不足の人は実年齢より老けて見えるという調査結果が明らかにされました。

しかし逆に考えると、安眠の習慣が整うだけで、寿命が延び、脳の働きが良くなり、精神が安定し、健康的で病気になりにくく、さらには若々しくスリムな外見を保てる可能性が高まるという、良いこと尽くしなのです!!

世界的に活躍している起業家やアスリート、ハリウッド女優などへのインタビューでも、成功の秘訣は「睡眠を大事にすること」という回答が非常に多くありますが、数々の論文も示している通り、安眠の習慣が彼らの人生を成功に導いた一つの要因となった事に間違いはないと考えられます。

 

では実際に睡眠障害になると何が身体の中で起きているのでしょうか。

カリフォルニア大学の精神神経免疫学センターの研究者らが、睡眠不足が生物学的に見て老化や病気の誘発にどのような影響を与えるのか調査した結果も一部参考に以下ご紹介します。

まず、睡眠は起きている間に起こった活動から脳と体を回復させる重要なプロセスとして機能していることを念頭に置く必要があります。つまり人間は眠っている間に体中の細胞の修復を行っているのです。

研究者らの説明では、睡眠障害や長期にわたる睡眠不足では細胞の修復などがあらゆる過程で狂ってしまい、それが老化や重大な病気へとつながるといいます。

睡眠と老化の関係を語る上で欠かせないのが、寿命の鍵を握ると考えられている「テロメア」です。

近年の抗老化研究でも大いに注目されているため、皆様も「テロメア」という言葉自体は聞いたことがあるのではないでしょうか。

簡単に説明すると、テロメアは細胞の核の中に存在しているのですが、細胞分裂の度に短くなっていき、テロメアが短くなるにつれて細胞の働きが弱まります。それが老化の過程と密接な関係があると言われています。

さらにテロメアの長さが短くなりすぎるとその細胞は「細胞死」を迎えてしまいます。このためテロメアの長さが寿命を決めている可能性が高いと考えられているのです。

睡眠障害、睡眠の質の低下、不眠症の既往歴のある人では、睡眠時間が長い人よりテロメアの長さが短いことが複数の研究で報告されています。つまり睡眠不足の人は睡眠時間が長い人より老化しやすく、寿命も短い可能性があるという事です。

なぜ睡眠不足がテロメアの長さに関与しているのでしょうか。

「テロメア」を短くさせる要素として「酸化ストレス」「炎症」からのダメージがあります。

「酸化」も「炎症」も適度なら免疫機能など身体に役立ちますが、アンチエイジングの分野で「酸化は身体をサビさせる」とよく表現されるように、過度な酸化や炎症は人間の体を劣化させてしまい、著しく害でしかないのです。

前述したように睡眠の質が悪いと細胞の修復過程などが狂ってしまいます。生命活動に必要不可欠な細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアに害を与え活性酸素が過剰になったり、免疫機能の調整が難しくなり慢性炎症を誘発するなどします。その結果、体内で酸化ストレスと炎症反応が必要以上に増大し、テロメアが短くなるのを促進してしまうのです。

また、慢性的な睡眠不足は、テロメアを修復する酵素であるテロメラーゼの活性を低下させることが多くの研究で示されており、テロメアが短くなるのを加速させてしまいます。

身体に発生した過剰な「酸化」や「炎症」は、がんや脳卒中、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病、その他うつ病を含む精神疾患などあらゆる病気の発生リスクを高めることが分かっています。

これが睡眠の質が悪いと老化を促進し、外見も劣化させ、病気にかかりやすくなるメカニズムです。

睡眠は人生の1/3の時間とはよく言われる文言ですが、本当に睡眠は毎日の積み重ねです。

慢性的な睡眠不足がいかに身体にダメージを与えるのかは明白です。

 

では、どう身体を守れば良いのでしょうか。

もちろん睡眠の質の向上のためにストレスをため込みすぎない、健康的な食生活、適度な運動などを心がけることは大前提として、栄養素としては睡眠対策の成分で睡眠の質自体を改善していく事が第一選択となるでしょう。

前回の記事でも解説した通り、安眠のためのホルモン・メラトニンの材料となる「トリプトファン」を摂取することをおすすめします。

トリプトファンについては過去の記事、こちらこちら  で解説していますが、

改めて簡単に説明すると、アミノ酸の「トリプトファン」は体内で幸福を感じやすくするホルモン「セロトニン」を経て、安眠のためのホルモン「メラトニン」にもなります

つまり「トリプトファン」を摂取することは、こころを穏やかにして幸福感を感じやすくし、不眠の原因ともなるストレス対策になるだけでなく、睡眠の質を向上させ、ぐっすり眠れるようになるのです。

さらに「トリプトファン」を幸福ホルモン「セロトニン」や安眠ホルモン「メラトニン」に体内で変えていくときに必要なのがビタミンB群です。

「トリプトファン」を摂取すると同時に「ビタミンB群」を摂取することは栄養学的に大変効率が良く、こころの健康や安眠に欠かせない栄養素なのです。ビタミンB群は幅広く様々な健康効果が知られているビタミンなので、睡眠が気になる方は先ずは摂取する栄養素としてビタミンB群の強化を考えてみるのも良いでしょう。

 

最近ではもう古い!と言われることもありますが、日本人は「寝てない自慢」が多く、少ない睡眠で頑張ることが美徳だという風潮も未だにあると言います。

睡眠が健康に与える影響について広範囲に研究している、メイヨークリニックの睡眠施設の所長であるヴィレンド・サマーズ医学博士は、「5時間程度の睡眠で元気になる人、いわゆる生まれつきのショートスリーパーは非常に稀」だと言います。

博士は「ほとんどの人は少なくとも7時間の睡眠が必要です。中にはもっと必要な人もいます。日中に十分に元気になれたと実感するまでの睡眠時間を確保してください」とアドバイスしています。

睡眠の質を上げることはロンジェビティ(Longevity):活力がある健康的な長寿人生を謳歌する!には欠かせない要素であることに間違いありませんね。しっかり栄養素摂り睡眠時間を確保して、人生をより良いものにしていきたいものですね。

 

次に、睡眠不足に陥ってしまった場合のリカバリーにもなる栄養素、すなわち寿命を決定してしまうテロメアが短くなるのを防ぐ、抗老化のための栄養素についてお伝えしたいと思いますが、

テロメア関連に影響を与える栄養素はアンチエイジングの分野でも重要視されている栄養素ですので、次回じっくり解説したいと思います!

 

今回はアンチエイジングについての話題でしたが、近年世界的にみてもこの分野への関心は本当に熱狂を帯びています。

今年の9月に中国の習国家主席とロシアのプーチン大統領が北京での式典に出席した際、両者が臓器移植で寿命延長をしたり、不老不死の可能性について話しているくだりをマイクに拾われてしまい、話題となりました。

臓器移植以外に、遺伝子編集や抗老化薬、幹細胞治療など寿命延長や抗老化に対してあらゆる可能性を求め人類は研究を進めています。

老化関連の話題で言うとどうしても手塚治虫先生の漫画作品、「火の鳥」「ブラックジャック」のことを思い出してしまいます。私の両親が手塚治虫先生の作品のファンだったことから、特に上記の2作品は私も幼少期から繰り返し読んだ感慨深い作品です。もはや説明が不要な世に知れた名作なので内容的な説明は割愛しますが、両作品とも「限りある人生の尊さ」「美貌や若さに囚われ過ぎる愚かさ」を手塚先生が漫画を通して愛情深く諭すシーンがあります。手塚先生が憂慮したように、現代においても不老不死を求める人類に対して間違った方向へ向かっていると警告する科学者や哲学者もいることは事実です。

実際に臓器密売などが世界的な問題となっていますが、抗老化や寿命延長の進化の過程では倫理的な問題を無視する人間も一定数存在し、被害者のことを思うと私も非常に心が痛みます。手塚先生らが案じた気持ちも分かります。

話は変わりますが、私がアメリカ出張に行った際に、サプリメント関連企業のCEOご夫妻とビジネスミーティングを兼ねた会食の中で情報交換をさせて頂く機会がありました。ご夫妻は健康や美容、アンチエイジングのために毎日100錠以上のサプリメント!を服用しているとのことでした。アメリカの健康意識が高い方で、100錠とまではいかなくとも実に多くの種類や量のサプリメントを服用しているケースは珍しくありません。

(因みに多量のサプリメントを摂取する方は医療従事者の管理のもと安全に服用しています。飲み合わせや体質に合う合わないの問題もありますので、自己判断でサプリメントを多量に乱用するのは危険ですのでやめましょう!)

お話しさせて頂いたご夫妻や当店のお客様を含め、このような健康や美容に意欲的な方々と接して感じるのは、より健康になることや若々しくいることを純粋に楽しんでいる方が多く、その好奇心や向上心は人として本当に魅力的だという事です。私もそのような方々と接すると非常に良い刺激になり、より頑張ろう!という気持ちにさせられます。

そもそも人間の脳にとっては新たな情報や物事の達成は報酬刺激で、好奇心や向上心で脳内の快楽物質ドーパミンが出る仕組みなので、人類が抗老化や寿命延長を求めて進化することは自然なことのように思います。貪欲に進化し続けていくことが人類最大の美点のようにも感じます。

倫理的な問題は十分に考慮する必要はありますが、人類が進化を求めて寿命延長や抗老化のために行う研究は、これからどうなっていくのか楽しみでしかありません。